「お葬式が終わって片付けをしてたとき……突然、颯太が私と雪那に向かって土下座したの。『俺のせいで二人からお父さんを奪ってしまって申し訳ありませんでした』って……。何度も何度も、泣きながら」
ポケットからハンカチを取り出して、日野ちゃんのお母さんに渡す。
きっと颯太さんは、どうしようもできない気持ちをずっと抱えていたのだろう。
小学生だった颯太さんには抱えきれるはずなかったんだ。
自殺という道を選んでしまうのは、不思議ではなかったと思う。
日野ちゃんのお母さんは、頬に流れる涙を俺のハンカチで拭っている。
「あの、雪那は……そのときのこと、結構覚えてるんですか……?」
久し振りに声を発したので、掠れていた。
当時幼稚園児の日野ちゃんに、血の繋がらない兄、恋している相手の、泣きながらの土下座の風景なんて、ショックが大きすぎるんじゃ、と思った。
普通なら、トラウマになると思う。
……だけど、そんな考えは甘かった。
トラウマなんてものじゃない。
日野ちゃんの傷は、俺が思う何倍も深かったんだ。
「雪那は覚えてないわ。というより、その記憶を消してるの。……あの子はまだ、颯太が生きてると思ってるのよ」

