「颯太は、十年前、亡くなったの」
日野ちゃんのお兄ちゃんが死んでいたということよりも。
日野ちゃんの現在進行形の初恋の相手が、もう既に死んでいる人物だということの方が。
……俺には大きかった。
「颯太は早くに両親を亡くしていて、親戚の私達がそんな颯太を引き取ることになったの。……養子という形をとったわ」
養子。つまり兄妹とはいえ、二人は実際の血の繋がりはなかったということだ。いや、親戚なんだからうっすらとはあったのか。
「二人が初めて会ったのは、雪那が四歳で颯太が九歳のとき。雪那は本当に颯太に懐いていてね。……ずっとお兄ちゃんが欲しいって言ってたし、長年の夢が叶ったようだったんでしょうね」
日野ちゃんのお母さんが喋っているのにこの空間は変に静かで、時計の針が動く音まで耳に届く。
そして、俺の心臓まで妙に速く鼓動を刻む。

