だけど、だいぶ進んだ数学の課題を眺める日野ちゃんの頬が、心なしか緩んでいる気がして。

俺はたったそれだけのことで、今日来て良かった。と思ってしまう。


「お見送りは?」
「そんなものはない」
「俺達付き合ってんのに、お母さん不思議がるよ」
「付き合ってないから。本当のことみたいに言わないで」


そこまで嫌がらなくてもいいのに。

部屋からお母さんが出ていって、二人きりになってから、俺の胸ぐらを掴んで本気でキレた日野ちゃんに、何気に傷付いていた。


そんなに怒ることか?

怒るか。
日野ちゃんは俺のこと、最高レベルに嫌ってるんだもんな。


……はあ。
溜め息をついてから渋々立ち上がった。


「じゃあな日野ちゃん」
「またね日野雄大」


本当に見送りする気はないらしい。冷てぇ。