そっと日野雄大の胸ぐらを離す。

テーブルの上のケーキと置かれていたフォークを手に取った。


「日野雄大。ケーキ、食べれば」
「日野ちゃん」
「ほら、フォーク」
「日野ちゃん」
「美味しいよケーキ。好きでしょ甘いの」

「……日野ちゃん!」


私はフォークを持っていた手をテーブルの上にぽとん、と落とし。
ケーキを乗せたお皿とフォークが重なりカチャ、と音を立てた。


「……お兄ちゃんに、会いたいって?」
「ああ」
「それは無理」
「なんで?学校?仕事?」
「……別に、そんなんじゃない」


──というか。私だって、会いたい。


「じゃあなんで……」
「日野雄大」
「何?」
「黙って」
「は?」
「……黙れって言ってんの」


あんたは私の奴隷でしょ。

そう言うと、暫く私を無言で見つめてから「……分かったよ」と、小さな返事がやって来た。