日野ちゃんはさらりと話題を変えてきた。


「日野雄大」
「何」
「禁煙の調子はどう?」
「まあ。順調」


嘘だ。真っ赤な。

なのに日野ちゃんは本当に嬉しそうな笑顔を俺に向けた。
さっき不機嫌に俺を睨み付けてきたときの顔とは正反対。


「そっか!エライエライ!」


俺の頭をガシガシと撫でる。

チクリ、と罪悪感が音を立てた気がした。


……騙してるからって何だ。
そんなことを気にするやつじゃないだろう、俺は。


〝その腐った根性と性格、徹底的に直してあげる〟

あの日の日野ちゃんの言葉が甦る。

なんだか、本当に日野ちゃんにされるがままじゃねぇか。



今更俺がいいやつになるなんて、虫の良い話じゃないか?本当にそんなの、許されるのか?

そもそも俺は、どうしてこの昼休みの時間を、態度のでかい日野ちゃんと二人で過ごすこの時間を、毎日楽しみにしているんだ。



……よく分からなかったけど、取り敢えず今日の帰り、日野ちゃんの言ってた通り禁煙飴でも買ってくか。と、決めた。