「美味しい。日野ちゃん」
「私が買ってきたんだから当たり前」
「そうかそうか」
怪我をしてるだけで病気じゃないといっても入院中だから、病院食以外は駄目かと思ったけど、みかんなら良いかな?
と、持ってきたみかんを美味しそうに食べている。
バレたら怒られるかな?
ベッドの横には一本の松葉杖が立て掛けられている。
数日前、日野雄大の移動手段は車椅子から松葉杖になった。
少しずつでもちゃんと治ってきている。
なのに私たちは、あの日以降何の変化もなかった。
私たちはとても微妙な距離だ。
純粋に恋人同士だったときのように、近くもなく。真実を知って別れたあとの数日間のように、遠くもなく。
とても曖昧な関係。生温い関係。
キスをすることもなければ抱き締め合うこともない。好きだよ、と囁くこともない。
つまりは、私たちは別れたまま。
それでも前よりは近い。

