返事ができずに俺を見下ろす女。
そんな目で見るな。


「お前、仕事は」


あの日以来、まあそもそもそんなに会ってないし会話もほとんどしていないけど、俺はこいつを〝お母さん〟と呼べなくなっていた。

こいつはそのことに一切触れてこない。


「ああ。ちょっとくらい平気よ」
「患者さんのために働くんだろ?俺と会話する時間もつくれないくらいに。償いだかなんだか知らないけど」


平気なわけがない。
仕事に行きたいなら行けばいい。
償えよ。

俺のところに居たって何の意味も無いんだよ。お前は。



「死にかけた息子を放ったらかしにしたら、それこそ終わりでしょ。医者としても、母としても」


そっと俺の額に触れた女の手は、優しかった。


──今更。今更何なんだ。

どうして今になって。

今更お前の優しさを知ったところで俺はまた、死のうとするんだから。


額に触れたその手を振り払いたかったけど、体が痛くて出来ない。

……いや。体が動いても、俺は出来ないだろう。