手袋なんか、取りに来なければ良かった。
手が寒いくらいのこと気にせず、そのままさっと帰ってしまえば良かった。

そしたらこの会話を、聞くこともなかったのに。



この家を出て数歩歩いたところで、手袋を忘れたことに気付いて戻ってきたら、これだ。


さっきまではかろうじて耳に入ってくる声だった。

だけどその内容が、あまりに衝撃的で。
足が動かなくて。

突っ立ったまま、ぼーっと二人の会話を聞いていた。


玄関先の私にまではっきり大きく聞こえる程の声になった。

恥ずかしくないのかよ!
日野雄大のそんな怒鳴り声と、何か激しい物音。


日野雄大のお父さんは、私から奪ったんだ。
お父さんも、お兄ちゃんも。

そして日野雄大のことも、私から奪っていくんだ。


やっと、少しずつでも前に進もうって……日野雄大と一緒なら大丈夫だって……そう、思えたのに。


ごめんなさい、日野雄大。
私はきっと、一生、あんたを恨んでしまう。