「恥ずかしくないのかよ、お前は」


お前。初めて、そう呼んだかもしれない。
お母さん。そんな言葉は出てこなかった。


「医者のくせに、自分の男が人殺しといて!金払ったから終わりだとか!……恥ずかしくないのかよ!」


椅子から立ち上がると、ガタガタと派手な音を立てて椅子が倒れた。


「恥ずかしいに決まってるでしょ。情けないに、決まってるでしょ」


目の前の女の声は、小さく震える。
やめろ。そんな声出すな。お前だって、加害者側なんだ。


「だからこれ以上ない程のお金を渡して。必死に働いて働いて、雄大とろくに会話する時間つくれない程働いて……何人もの命を救ってるの!」


叫ぶように言って、俺と同じように立ち上がる。


いつの間に俺は、こいつの身長を抜かしたんだろう。俺はいつの間に、この女を見下ろすようになったんだろう。

……それさえも、はっきり分からない。
それ程に、俺たちの距離は大きかった。


「これ以上私に……どんな償いをしろって言うのよ……。いつになったら私は、解放されるのよ……」


ぺたり。と。
しゃがみこんだ女を見下ろす。

償いきれるわけがない。一生。
日野ちゃんや日野ちゃんのお母さんが、一生悲しむように、俺たちだって。


「ねぇ、雄大……どうして?どうしてあの子なの……?」


そんな言葉を言われた瞬間、俺の頬に生温い何かが伝った。喉がつんと痛む。

本当にその通りだ。
どうして俺の相手は日野ちゃんだったんだ。
どうして日野ちゃんの相手が俺だったんだ。