「……雄大、ちょっとそこに座りなさい」
俺は日野ちゃんが心配だったので内心いらいらしながらも、黙ってお母さんが指差す椅子へ腰かけた。
「どういう心境の変化?今まで付き合ってた子は一人も紹介しなかったのに、どうしてあの子だけ?そのくらい、あの子が特別な子だから?」
「……ああ。なんか、文句あんのかよ」
「いいえ。何も文句なんかないわ。……相手が、あの子でさえなければね」
日野ちゃんの何が気に食わないというのか。
さっき頭のなかで立てていた仮説が浮かんだ。また、嫌な汗が吹き出てくる。
「どうしてあの子なのかしらね……。何も、あの子じゃなくても」
そう言ってお母さんは頭を抱えた。項垂れている。
何なんだよ。もうはっきり言ってくれよ。
そう思った。
「雄大。よく聞きなさい」
そう言って真っ直ぐ俺を見つめた女は、俺に全く愛情を注いでこなかった人間。
俺はこいつと深い会話をした記憶が、全くない。
仕事、仕事、仕事。
人の命を救うのがこいつの仕事だ。
だけどそのためなら、息子なんてどうでもいい。金さえあれば大丈夫だろう。そんな考えの人間。
……俺は、こいつを母親と思えたことが、一度でもあっただろうか。
俺に初めて愛を教えてくれたのは、こいつじゃない。こいつに愛を貰ったことは、ない。
俺を愛してくれているのは、きっと日野ちゃんだけ。

