「本当に変なことしないでよ!」
背中を向けたまま怒鳴られる。
「だから変なことって何」
「変なことは変なこと!したら破局だからね!」
「……はいはい」
ガード堅いな。
まあ俺はその方が安心だけど。
相変わらず背中を向けたままの日野ちゃんを、無理矢理こっちに向かせた。
視線が合った瞬間、日野ちゃんは俯いて俺の顔を見ようとしない。
「……なんでこっち見ないの」
「どこ見たら良いか分かんないもん」
「まあいいけど」
日野ちゃんが俺と視線を合わせないのを良いことに、日野ちゃんを自分の腕の中に抱き寄せた。
すっぽり収まってしまう日野ちゃんの体。
「……日野雄大は、ドキドキしないの?」
俺の胸に顔を埋めた日野ちゃんが、掠れた声でそう言った。
……馬鹿なんだろうか日野ちゃんは。
「……しないわけないだろ。俺は、日野ちゃんの百倍は恥ずかしいよ」
「うん。分かってて聞いた。心臓の音、すごいもん」
そう言う日野ちゃんの声は、少し笑っていて、なんだか悔しい。
可愛くない。可愛いのに。
「……ここね、」
日野ちゃんは言いながら、そっと俺の背中に手を回してきた。
「すごく、日野雄大のにおいがする」
「そりゃ、俺のベッドだから」
「うん。……すごく、好きなにおい」
甘い。日野ちゃん甘すぎる、この雰囲気。
なんだか俺はもう、クラクラした。

