「違う男と付き合ってたのに先生と不倫してた。妊娠した途端に…恋人にばれて、先生に縋ったらシラを切られて捨てられた。
だからっ、先生に話した奏多に八つ当たりしてただけじゃない!」


置いてあった週刊誌を美樹ちゃんに投げつけて、涙を流している彼女はきっと誰よりも奏多を傍で支えていたんだろう。


「っ、だったら何?私は!先生を愛してた。だから産むって決めてたのよ!なのに…奏多が、アイツが余計な事言うから!!」

「………要は、ただのひがみだろ。アンタ、今のウサギちゃんが羨ましかったんだろ。」


冷えた伊織の声に彼女はビクリと肩を震わせていた。
こんなに怒りをあらわにするこいつを見たのはいつ以来だろうか。


「謝ったら許すつもりだったわよ…でもアイツは幸せそうに笑ってて!しかも相手が拓海さんなんて赦せるはずないじゃん!拓海さんは姉さんの恋人なのよ。アイツが拓海さんの恋人なんて死んでも認めない。」


背筋が冷たくなった。
頭の中で警鐘が鳴りつづけ、あっては欲しくない仮定が成り立ってしまう。


「由里に…由里に何か言ったのか?」

「そうよ。言ったわ。葵 奏多のせいで私が苦しんでる。今は拓海さんの恋人よって。私の味方は姉さんだけなの。姉さんが拓海さんと結婚するためならなんだってするんだから。」


歪んだ世界、歪んだ彼女がいる。
あの時の人懐っこさは微塵もなく、いや…元からそんなもの幻想だったのかもしれない。

今の君は、俺の大切なものを傷つけるただの敵でしかなくなる。


「伊織、悪いが」

「さっさと行けよ。コイツは見張っておく。」


お前が親友でよかった。
今は、お前に甘えさせてもらう。

俺には、追い掛けなければいけない人がいる。

追い掛けて、君を捕まえて、謝らせてくれないか…?


赦せなくても良い。
それでも、傍で何度だって謝り続けたいんだ。

奏多のもとへ、その前に俺が伝えたい事を伝えようと未だに俯く彼女を見下ろした。


「美樹ちゃん。」

「……っ、なに」

「例え、奏多が俺を許してくれなくても、俺は奏多以外と結婚する気はない。ましてや君のお姉さんとは死んでもあり得ないよ。」


奏多以外はいらないんだ。
俺には奏多がいればいいし、奏多じゃないなら一生涯独身でいるつもりだ。


「な、で?」

「奏多だからだよ。奏多だから恋愛したい、キスしたい、セックスだって。奏多に似た子供を抱きたい。50年後も俺は奏多を愛してる自信があるから。」


奏多のいいところは君も知っているだろう?

そう付け加えたところで、俺は一歩扉へと足を踏み出した。



奏多、待ってて。

すぐに君を見つけるよ…