「何を聞いたの?」

「え…と、何も…」


嘘を突き通すなんて絶対に無理だけど、私から言うわけにはいかないから。
拓海さんに隠し事なんてしたくないけど…ごめんなさい。


「奏多?」

「………メグに電話してるのを聞かれた。それだけだよ。」


カチャリと開いた扉から苦笑いを浮かべた英部長。私は、言わないでほしいと言っていたのに簡単に拓海さんに話している部長に眉を寄せてしまった。


「拓海は知ってるから。コイツに隠し事なんかできないしなぁ」

「伊織……おまえ」

「わかってる。でも…無理なんだよ。離れるなんてできねぇ。それだけだ。」


頭上で交わされる会話に首を傾げても、言葉の真意は私にはさっぱりとわからない。


「そんな顔すんなよ、いつかは決着つけるさ。あ、これウサギちゃんの荷物。円香が持ってきたやつな。」


暗く陰の落ちた英部長はわざと明るく私に鞄を渡してくれる。
今の部長、捨てられそうになっている子犬みたいに寂しい目をしている…自分で気付いてる…?


「ありがとうございます…」

「じゃあ、俺はお暇すっから。ウサギちゃん、黙っててくれありがとうな。じゃ、また来週!」


右手を挙げて無理矢理な笑顔を張り付けている部長が今は痛々しい。
馬鹿な私でもわかる。

きっと英部長はすごく悩んでいる。円香さんと、"メグさん"って言う人の事。
私にだってわかってしまうんだ。
部長と"メグさん"の関係が。