「奏多ちゃん、待ってたわ!」

「さぁさぁ、座りなさい。拓海、ボケッとしてないで奏多ちゃんをエスコートしないか!」


大きな部屋、おそらくリビングであろう部屋に入るなり拓海さんのご両親が満面の笑みで近づいてきて、引き返しそうになる足をどうにか踏ん張って笑みを張り付けてみた。


「奏多、無理に笑う事はないよ。」

「拓海さん…ありがとう、」

「座ろうか。いつまでも立っていたら煩いからね?」


片目を器用に閉じ、悪戯にそう言う拓海さんにほんの少し肩に入っていた力が抜けていた。


「あのっ…初めまして、葵 奏多です。」

「うふふ…可愛らしいお嬢さんね。私は拓海の母親の陽菜、さっきも言ったけどママって呼んでね?」


柔らかいふわふわとした印象のある拓海のお母様、陽菜さん。
…やっぱり拓海さんと年があまり変わらないようにしか見えないけど。


「初めまして、私は父親の音弥だ。パパって呼んでくれるかな?奏多ちゃん。」


拓海さんと目元が似ているお父様の音弥さん。
ご両親を見て、1番気になったのは言うまでもなく年齢だったりもした。
だって、どう見たって拓海さんと同年代にしか見えないんだもの。


「父さん、母さん。奏多と結婚しますから。」


普通の会話のようにさらりと言われた言葉は聞き逃しそうな位に自然すぎた。
拓海さんは至って真面目だし、ご両親も……いや、ご両親はニコニコと笑顔を見せている。


「えぇ、じゃあ早くお式なんかの段取りしなくちゃね?奏多ちゃんは和装と洋装どっちがいいのかしら…」

「そんなのどちらもやれば良いんじゃないか?奏多ちゃんは可愛らしいからどっちだって似合うさ。」


あ、あれ?
なんだか普通に進む話に私はどうにも反応できずに拓海さんとご両親を交互に見るしかできなかった。