二年前の春、海外を飛び回っていた俺は祖父に言われるままに東京にある支社の入社式に出た。

真新しいスーツに身を包んだ大勢が硬い表情で壇上にいる俺に注目していた。


別段、何も変わらないような入社式でも、たった一つ、いや…たった一人を見ただけでその色を変えてしまった。


他の社員より小さく、それでも凛とした出で立ちで背筋を伸ばしている。
たった一目、見ただけで気になった。

初めて、生まれて初めて一目惚れをした瞬間でもあった。



「伊織、今年の社員で小さい女性がいただろう?」


入社式から数ヶ月経っても彼女が忘れられずに、昔から付き合いのある東京支社にいる英 伊織に尋ねた。
伊織だからと言え知っているとは限らないのに、そこまで頭が回らなかった。


「は?………あぁ!ウサギちゃんの事じゃねぇ?それ。」

「……ウサギ?」

「あぁ、葵 奏多。確か18歳。高卒でもかなり使えるって柏木が喜んでたな。」


ウサギ、は名前ではなくあだ名らしい。葵 奏多、やっと知れた名前に柄にもなく嬉しかった。


「拓海、おまえ…」

「まぁ…な、」


まさかこんな歳で一目惚れ、それも14も年下の女に。
伊織は信じられない、と目を丸くしてはいるが…信じられないのは自分だ。

三年前に、二度と本気の恋愛などしないと誓った。
それが話した事もない女に覆されたのだから。


「ウサギちゃん、モテるから大変だな。」

「ふ…まぁ、気長にやるさ」


俺よりも嬉しそうな友人、いや、親友に口許が緩んでいた。