「あー……いや、言葉の通りなんだけどな?」

「いや、意味がわかりませんから。」


珍しく煮え切らない英部長にぴしゃりと返せば、小さくため息が返ってくる。


「…ほら、二年前…ウサギちゃんが新入社員で入ってきた時。」


英部長の言葉に私は、あっ、と小さく声を上げた。


「ホールで社長挨拶…あの時にウサギちゃんを見つけて、一目惚れしたんだと。」


まさか、と思う。だって新入社員式には社員が総員集まる。当たり前に千人以上いるのにありえないでしょ…


「でもっ、あの時は初めて会ったみたいな感じで、」

「恥ずかしかったんだろうな。良い歳した男がまさか二年も片思いして、しかも一目惚れなんて。」


英部長の言葉にどう反応していいかわからなかった。
恥ずかしいのか、うれしいのか。


「運命なんじゃない?拓海がウサギちゃんにホレたのも、ウサギちゃんが拓海にホレたのも。」


当たり前のように言って退けた英部長に今度こそ私は頬が熱くなった。
まさか、そんな前から拓海さんに知られていたなんて…


「拓海はさ、跡取りなわけだから…色々あんだよな。だから恋愛には億劫だし、結婚すらしないって言うような奴だから。」


なんだか私が知らない拓海さんをたくさん知る英部長をうらやましく思った。
私は拓海さんを何も知らなくて、今までどんな恋愛して、どんな風に生きてきたか、何も知らないんだから。


「だからさ、ウサギちゃんを嫁にするって言ってた拓海にびっくりしたわけ。」

「……はぁ…」

「少しずつで良いから拓海を受け入れてやってな。」


優しい物腰の英部長に今まで怨んだりしていた気持ちがすっぽりと抜け落ちた。


「ほら、男って溜まりすぎたら死んじゃうらしいし?」

「…………っさいってー!!!」


前言撤回!
やっぱり、英部長は最低最悪な悪魔だっ。