「例えばさ、今彼女とか作るとこのだし巻き卵も食べられなくなるだろ」
え?
だし巻き卵を突いていた箸が止まった。
「……ごめん、彼女とだし巻き卵が繋がらない」
「気軽にお前とこうやって飲みにこれなくなるだろ」
「別に彼女とここに食べに来れば」
「いや女ってこういう居酒屋が嫌がるだろ、おしゃれなダイニングバーじゃなきゃ嫌とか言うし」
「その女に私が含ませていないのは何事ですか」
「いや一般論として」
誰が論じてるんだよ!
つまりはこういうことらしい。
彼女が出来たら、週末に私と気軽に飲みに行くなんてことが出来なくなる。
私と飲めないということは、この居酒屋にも来られなくなる。すなわちだし巻き卵が食べられない。
……何それ。
「え、まさかそのために彼女つくらないとか」
「別にそれだけじゃねーけど。考えたらそれもあるなって」
「ねぇ今の私の複雑な気持ち、理解できる?」
「お前の気持ちなんて大概理解出来てねーよ」
「しようとしろよ」
「上から目線だな」
「だって好きなんだもん」
複雑だ。
好きな人に彼女が出来ないことは嬉しいことだけど。
こんなに好きなのに。人の気持ちというのは、難しいものだ。

