「じゃあ、行こっか」


行ってしまった。
ここで声をかけたら待ってくれたのかな。

二人は雨の中消えてしまった。

私は衣緒が先に行ってしまったことより、紫藤が衣緒に誘ったことが信じがたかった。

屋上での衣緒に隠した秘密なんて、全然価値が違う。

するといきなりケータイが震えた。


見てみるとこう書いてあった。

「衣緒:ごめん!先帰ってる!紫藤くんと!今度埋め合わせするから!本当にごめんなさい!」


急いで打ったことが分かった。

私も、傘忘れればよかった。
そうしたら。

急に泣き出したくなった。

でも衣緒に勝てる自信なんてなかった。
容姿も、性格も、名前も。

私は一人、雨の中を歩いていった。



誰も顔が雨以外のもので濡れていることに気付かなかった。