「物憂げだな。舞踏会がつまらないのか?」

「そういうわけでは………いえ、本当の事を言うと、あまり。」

自分をよく知ってる父の前で分かりやすい嘘をつくには、嘘をつく上手さが足りなかった。
嫌な顔をされるんじゃないかと不安になったアリアは、恐る恐る伏せていた顔をあげるが相手は優しく笑っていた。

「少し中庭へ行こう。実は私も少し退屈していてな。」

アスランは中庭に続くテラスの窓を押し開けると、レディーファーストと言わんばかりに、自分より先にアリアを外に出した。
アリアは小声で礼を告げると、中庭へと足を踏み入れた。
真夏の夜にしてはほんの少し肌寒いのは、おそらく天候のせいだろう。

アスランはテラスの窓を静かに閉めると、アリアの隣に立って、雲から見え隠れしてる月を見上げた。

「なぁ、アリア。」

普段とは違う声音ーーまるで下の者達に指示を出している時のような威圧感のある声にアリアはほんの少し戸惑いを覚える。

「恐怖に怯える王を、お前はどう思う。」

ヴァルカンをまとめ上げる偉大なる王が口にした言葉は、いままでにないほど弱々しい本音だった。

「何故ですか?」

好奇心と心配が入り混じった複雑な気持ちを抑えて、アリアは目の前の父親に問う。

「私はもう長い間、ある事に怯えているからだ。」

「……ある事、とは。」

「お前が産まれた時の、予言だよ。」