天狗の娘



「え、無理…………えっ!?」


紗希の脚が突然、本人の意思を無視して動き始めた。

驚いたはずみで目を開ける。

隼が真顔でこちらを見ていた。

数回足踏みを繰り返した後、紗希の脚は全速力で走り出す。


「えっ!? ちょ、え、無理! うそ、止めて!」


しっかり目を開けてしまった紗希は、凄まじいスピードで迫ってくる渓谷に向かって叫んだ。


「ぎゃあああ!」


その叫び声は虚しく山々に木霊し、紗希は境門に突っ込んだ。