天狗の娘



「何をしてる?」


鳥居の前で振り返った隼が言った。


「えっと……」


紗希は言葉に詰まって俯く。

自分の命を助けようとしてくれているのに、崖に踏み出すのが怖かった。

昔、母もここを通った事があると聞いたのだが、恐ろしいとは思わなかったのだろうか。


「目を閉じろ」


鳥居の傍で腕組みをした隼が言った。


「え?」

「早くしろ」

その声に慌てて瞼を閉じる。


「走れ」


隼の声がした。