「見ろ」
彼は不服そうに口を開きかけた紗希に言う。
いつしか二人は、山頂の拓けた場所に出ていた。
紗希が振り返った先に聳えている、石造りの鳥居は僅かに苔むしていて、深閑としたオーラを放っていた。
濡れた様に黒光りしている額束には、立派な金文字で境門と記されている。
「時間がない、急ごう。
この門を潜れば常世だ。身動きが取れない現世(こっち)よりはずっと安全なはずだ」
そして隼は何の躊躇いもなく、境門に向かって歩いていった。
鳥居を一歩踏み出せば、断崖絶壁の渓谷。
紗希は隼の背中を見ながら、覚えず足が竦んだ。
