天狗の娘



「くっ、飛ぶぞ! 紗希!」


隼が走る速度を速める。


「え。待って、私そんなに早く走れない……!」


紗希は叫んだ。

その直後、泥に足を滑らせて体が投げ出される。

胃が浮かび上がって、地面が迫った。


「……?」


だが、違和感を感じた。

なんと紗希は、転びかけている状態で前進していたのだ。

目下、五十センチにはぬかるんだ畦道。

紗希の体は浮遊し、隼に引っ張られて、徐々に高度を上げていた。

遠ざかって行く地面は、霧に覆われて見えなくなっていく。