「ねぇー、お母さん、遅いー!」 山道から、少女の声がした。 幾時かが過ぎ、今にも稜線に沈みそうな夕日が、直視できないほどに眩しい光を、鳥居の向こう側の連峰に浴びせている頃だった。 「紗希」 少年が小さくつぶやくのと、山頂の開けた場所に彼女が姿を現すのが、同時だった。