天狗の娘



「追手だ! 逃げろ!」


隼が言い、紗希はやっとの事でつんのめった体躯を起こす。

走り出した背後で、自転車の転倒する派手な音がした。

ぬかるんだ泥水が紗希の靴の内側に入り込む。

肩に、焼けるような刺激の軌道を感じた。


「痛っ……!」


目をやると、銀色の短剣が光った。

その先端には、赤黒い血。

ぎょっとした紗希の目の端に、狐のお面をつけた小さな子供が映った。

しかしそれも刹那、その子供は霧の向こうに姿を眩ました。

紗希のセーラー服の袖は綺麗な縦一直線に開き、じわりと血が滲んでいた。