「こいつは天狗だ」 慶一郎は答える。 (天狗……) 慶一郎によると、天狗とはその土地を守り、一帯の小神をまとめている、氏神様とも呼ばれる存在なのだそうだ。 寝物語に飽きるほど聞かされた話だ。 (でも、天狗ってこんなに小さな子なんだ) その役割から、髭が伸びきった仙人の様な老人を想像していたのだが。 紗希は再び少年を盗み見る。 所々破けた黒い着物から、彼の白い手首に泥水が伝った。 微動だにしない無表情の少年は、どこか思いつめったようにも見え、幻の様に儚げだった。