全身びしょ濡れの慶一郎の隣に、少年が俯いて佇んでいたのだ。 その少年は泥だらけで、肩で息をしていた。 俯いた前髪はぬらりと妖しげに、紗希の手元にある懐中電灯の光を返した。 上り間の紗希に、一瞬だけ上げられた顔に感情はなく、蝋のように白い頬にできた、切り傷の生々しい赤みが不気味だった。 その視線にひやりとした物を感じ、紗希は懐中電灯を取り落す。 暗闇の中、何故だか分からないが、威圧を感じて呼吸をする事すら躊躇われた。