「あ、ごめんなさい・・・
そうですよね・・・

私なんかに・・・」


里子は恥ずかしいやら悲しいやら苦しいやらで晴太の顔が見れなかった。


「ごめんなさい・・・
私、もう行きますね。

西川さん達が待っているので・・・」


里子は晴太にお辞儀をしてドアを開けようとドアノブに手を置いた。

早くここから出なきゃ晴太に泣いてるところを見られてしまう・・・
こんな面倒くさい女に晴太が連絡先を教えるわけないじゃない・・・
泣くな、里子・・・
泣いたらだめ・・・



晴太はどうしていいか心の中で迷っていた。

連絡先を教える事は簡単なことだ。
でも、それは本当の優しさじゃない。


「ののちゃん?」


里子はそう呼ばれても下を向いたままだった。


「僕の連絡先は・・・

あ、じゃ、ののちゃんのメールアドレスを教えてもらえる?
僕の携帯は昔の型のガラケーだから、メールならできるかな・・・」



晴太は里子を拒むことができない。
それはお互いがもう分かっていること・・・

晴太の荒んだ心の中に里子という優しい花の種が植え付けられた。
それはもう芽を出し晴太の真っ暗な闇の中に小さな光を灯した。

だから里子を拒むことができない・・・
里子は晴太の一部になってしまったから。