「分からん奴じゃのぅ」

そんな本城の感情など知る由もなく、男爵は告げる。

「そんなに分からんのじゃったら、お前にも分かり易く言うてやるわい」

男爵の石像のような顔、その口角がつり上がる。

「その女は『修復不可能な段階にまで壊れた』んじゃ。『廃棄処分』『スクラップ』という事じゃな」

そう言って、声を上げて笑う男爵。

我ながら上手い事言ったと、自画自賛しているだろうか。

その顔面に。

「ふぐぅっっっっっっ?」

十文字の拳が叩き込まれた。

CPUが、その衝撃換算値を計測する。

――7トン。

「な、何じゃとぅ…」

2歩3歩とよろめきながら、男爵は驚愕する。

「拳打で7トンじゃと?俺の棍棒の打撃でも、5トンじゃというのに」

「……」

MHに変身したままの十文字の顔に、表情は浮かばない。

昆虫のような触角、複眼、口腔部。

無機質な顔。

しかし。

「十文字君…」

向日葵には分かった。

無機質なその横顔に浮かぶ、全てを焼き尽くすような咆哮が。