「……っっっっつ!?」

甘かった。僕は、自分の行動を少しだけ後悔した。
こんなところに、一人で来ようなんて。

「ご主人さま?どうなさいました?」

目の前で、小首を傾げるメイドさんに僕はふたたび赤面した。

「そ、そのっ、、、ぼ、ぼくはっ」

情けない僕の言葉を、メイドさんは待ってくれている。

だんだん場の雰囲気に慣れてきて、僕はようやく用件を伝えることができた。

「えと、今日は客としてここに来たわけじゃなくて…」

そう、僕がいつもなら絶対に来ないメイド喫茶に来たのには理由がある。

「ここに、優秀な探偵がいるときいて…」



言った瞬間、僕の接客をしてくれていたメイドさんの顔色が変わった。

「こちらへ」

潜めた声で僕を促すメイドさん。

僕はそっと席を立ち上がった。そして、黙ってメイドさんについていった。






店内の奥、明るい店の雰囲気とは対照的な日陰のような場所に目的地はあった。

「こちらです」

案内してくれたメイドさんは、それだけ言うと足早に戻っていった。
まるで、不用意に関わりたくないかのように。
僕は、足元に落ちていた紙を拾いあげた。
その紙には、書きなぐられたように


『メイド探偵事務所』


と記されていた。

間違えなく、ここだ。
僕の救世主。いや、僕らの救世主。
この扉の向こうに、彼女がいる。

ごくり、と喉がなった。
手には、汗をびっしょりとかいている。

僕は、緊張した面持ちでドアノブに手をかけた。

ガチャッ
ぶっっっっ!!‼!?⁉

突然勢いよく開けられたドアに、思いっきり顔面をぶつけた。
い、いたい…

「むっ?」

暗がりの中から顔を覗かせたのは、この部屋の主、もとい少女だった。

「お前は誰だ」

ぼさぼさの長い髪、少女らしい無垢な顔、
だぼだぼの白衣。
この子が…

「誰だと聞いている」

不機嫌そうに僕を見上げる少女。
僕は、はっとした。

「その、依頼をしにきた者です」

おどおどと、そう告げると少女は僕を上から下まで見定めるように見た。

「ふん、高校生か。…まぁ、いい。
入りたまえ」

「は、はぁ」

制服で来ないほうが良かったかな…
依然として不服そうな少女に言われるがまま、僕は中に足を踏み入れた。