鼻をさすきつい薬剤の匂い、白い壁、白い床。クロエは、目を覚ました。
上半身を起こそうとすると、
頭がくらくらして再び倒れる。
「やめとけ。背中に酷い火傷をしている。
いくら天羽でも治るのには何日かかかる。」
目の前の椅子に座り足を組んで本を読んでいるシルバーは、珍しくスーツ姿だ。
『ここは?』
「0のアジト。お前、城の前に倒れてたんだ。見つかると厄介だから連れて逃げた。」
クロエはついさっきのような、その出来事を思い出した。
『国は!?ジャータ国はどうなったのっ』
「…落ち着け。特攻隊とイズミ様の力で火はもう収まった。
ただ、王都に暮らしていたうちの6分の1の民に死者・負傷者が出た。これからの事はまだ決まってない。」
「…そんな顔すんなよ。」
クロエはいつの間にか、
涙を流していたようだ。
シルバーは、クロエのベットに座る。
ギシリと軋む音がすると、
クロエの頭をぽんぽんと優しく撫でた。
『ごめ…』
「謝るな。お前は正しい、ただ、0のやり方はそれじゃ通用しない。
…辞めたければやめろ。
俺は止めない。」
クロエは、シルバーが立ち上がると同時にシルバーの服の裾を掴んだ。
『やだ…』
「…」
『私は、五大魔法使いになる。
ならなきゃいけない。
応援してくれる人がいるの。
信じてくれる人がいる限り、
私は絶対に辞めない!』
クロエは、熱意のこもった目でシルバーを見た。シルバーは、目が覚めたようにクロエを見た。
「…俺がどうかしてた。」
シルバーは自嘲するように笑った。
「昔、0にお前のような正義感の強い男がいた。
そいつは、この冷めた組織を叩き直そうと努力した。
だが、ある日それを見かねた神官が、世の“秩序を乱す”と言ってクランに命令したんだ。
“殺せ”と…
クランは悩んだよ、自分の気の良い大切な仲間を殺さなければならない。だが、自分が何もしなければ必ず神官は他を当たって殺すだろう。
じゃあせめて俺がとクランは男を殺す覚悟をした。
勿論俺は反対したけどな。
“馬鹿げている”って。
結局、どうすることも出来ずに見守ることしか出来なかった。
男は殺された、クランの手によって。
男は笑顔で朽ちていった。
その笑はクランにとって残酷なものだった。
それからだよ、この組織がこんなに冷たくなったのは。」
病室が静まる。
知られざる0の過去、神官の残虐で非道な命令。
クロエには衝撃的だった。
『…それでも』

