(なんで、魔法が効かないの!?)
唱えても、雨は降らない曇りもしない。
『水霧っ!!』
何度唱えても同じ事だった。
『なんで…!?なんでよっ!!』
「無理だよ。
私が全部の魔法を無効にするよう、
禁忌の魔法をかけたのだから。」
クロエは耳を疑う。
『その魔法は…命を落とすのですよ…?
嘘と言って…!
じゃあ、この城に火をつけたのも貴方ということになる!!』
天井が崩れる音。騎士達が部屋に入るのを阻止するように瓦礫が部屋を塞いだ。
「国王陛下っ!!!」
「お前達は先に行け。」
「ですがっ」
「行けっ!!」
クロエは、騎士たちが走っていく音を聞き取るとアレンを見た。
『…貴方なのですか?』
暫く見つ合うとアレンは口を開いた。
「そうだ
私は、この城に火を放った。
そして…私が最も大切にしていたチユを死なせた。」
『なんで…』
「耐えられなかった。たった1人の私の娘が、
日に日に弱っていく姿を見るのが…。
いつか、妻のように私の手から離れていってしまうのが…。
私は王であったが、良い主君にはなれなかった。地は痩せ、活気もない。個人の感情を優先した愚かで最悪な王として後世代々語り継がれることだろう。こんな王のもとより、他国に併合されるほうがよっぽど国民の幸せになる。」
アレンは、
チユの亡骸をそっと抱きしめた。
「もう、終わりだ。
やっと、妻に会える…。」
アレンの口元から一筋の血が流れる。
時間が無い。
『そんなの歪んでるっ。
王妃様もそんな事は望んでいないっ。』
クロエは、必死に叫んでいた。自分の容姿が元に戻っているのにも気付かない。
「…やはり、君は0の幹部なんだな。」
びくりと肩が揺れる。
今は眼帯すらしていない。
紋章が、はっきりとアレンには見えていた。
「それに、君はクロエに似ている。
この国は1度クロエによって滅んだのだ。
すまない。
君がクロエの生き変わりなのなら、
謝らせてくれ。
もうこの国に跡継ぎはいない。
国も燃えた。
我が王家の終末の時が…来たのだ。」
アレンはすっと息を引き取った。クロエはなんとも言えない感情が込み上げてくるのを感じた。
チユとアレンを、テラスまで運び出す。
そして街を見渡すと、真っ赤に燃えていた。
これが、自分のした罪なのだ。
『クロエ…貴女が私なら……
私は……っ、ああぁあ"ぁあ!!』
クロエは、一人チユを抱いて
泣き叫んでいた。
(熱いっ…)
燃え盛る炎が近くまで迫っていたが、その場で倒れ込んだ。
自分の魔法は、ここまで未熟だったのだ。
そう思い知る。
意識朦朧とする中、一人の男がクロエの手を取った。
「クロエ様。貴女はまだ知らなくていい。」
エミリアの時の彼だった。その鍛えられた体は男そのものだ。
その心地いい声色に、クロエは眠りに落ちる。
「こんな危険なことをせずとも良かったのに…。」
青年は愛しそうにクロエを抱き、そのまま城前の火の少ないところに下ろすと去っていった。

