翌週、クロエ達はクラビアン家を訪れていた。勿論クロエの護衛係、ゲーテもついている。
何をするのか?
そんなものは決まっている。
次期族長の決定だ。
クラビアン家の試練はこれから始まる。
広大な自然に覆われたクラビアン家の訓練室。
『わぁ…』
こんな訓練室は生まれて初めてなのか、クロエは口を開けていた。
蓮の家にもこういった訓練室はある。
だが、いつもは普通の訓練室だったから見たことがなかった。
ーガチャ
今はヨウテスの両親とクロエ達が観覧席のような別室で訓練室を見ていて、あちらからこちらは見えないようになっていた。
入ってきたのは、顎までの黒髪にエメラルドグリーンの瞳のヨウテスによく似た男性だった。
「ユンテス…」
一見爽やかで優しげなユンテスは、どこが問題なのかわからない。
「やぁ、ヨウテス」
(あの笑顔…)
何処かで見たことがある。
クロエは記憶をめぐらせた。
『クラン…いや、でも根本的に違う。』
貼り付けたような胡散臭い笑顔と、光のない瞳。
彼は絶対に族長になってはいけない。
クロエは食い入るように彼らを見つめた。
「…その胡散臭いのやめろよ。」
ユンテスの顔から笑顔が消える。
「……そうだね」
それが戦闘開始の合図になったのか、ふたり同時に解放をした。
その衝撃で、地はヒビが入り草木は尋常じゃないスピードで成長する。
「ー地柱ー」
なんと、ユンテスはヨウテスの得意魔法を剣一振りで全て砕き、剣を地に刺した。
「くっそ!」
「ー地鉄ー」
これはユンテスの得意魔法。地を分かち持ち上げ鉄と化し相手をそれで叩き潰す。
「落ちろ」
ーガーンッ
ヨウテスの頭上に現れたそれは、
一瞬で彼を叩き潰した。
「!ヨウテスっ」
隣で小さく悲鳴を上げたビアンカを尻目に、砂埃の舞うそこを見た。
確かにこれはいけないとクロエは冷静に判断する。兄弟でここまでの差がついてしまうなんて…。
「もう、終わり…?」
ユンテスの冷めた瞳がヨウテスの戦意を失わせる。
それに追い討ちをかけるように腹を強く蹴った。
「クハッ…!」
激しく壁にぶつかると、ぴくりとも動かない。
「残念だよ。もっと強くなってると期待したけど…。」
何度も何度も蹴られるヨウテス、最後の力を振り絞ってかユンテスを押し倒した。
油断していたユンテスの顔に剣が迫る。
また小さく悲鳴をあげ隣で目を閉じたビアンカと息を呑むリオ。
大きな重圧が、その場にいた全ての者を襲った。
ヨウテスの父親が観覧席のガラスを消し、身を乗り出す。
そこには綺麗に切りそろえられた黒髪を後ろに流した女性が立っていた。
手には大きな杖を持っていて、
杖で地をつく事に重圧が重くなる。
ビアンカやリオ、レイはそれに耐えきれずに床に伏せていたり、膝をつく。
クロエやルカ、ヨウテスの両親はものともせずにじっとその様子を見ている。

