「雨宮、髪伸ばさないの?」

授業中、成瀬が俺の髪を軽く引っ張った。


「伸ばさねー」

俺は、うわごとのように答えた。


去年

俺が初めて本気で惚れた女

宮野春綺がイギリスから帰国して
俺と成瀬の前で見事に幹にぃと結ばれた。



それ以来俺の傷は未だに癒えてない。



俺の右斜め前で講義を受ける宮野は

さっきからずっと左手を眺めている。


先日、幹にぃから貰ったエンゲージリングだ。



「……幸せそー…」


そう呟いた俺の頭を

成瀬がゴツンと叩いた。


「いっ!?」

「何、未練たらしい顔してんの。
情けない」

「るせーな。」


俺はまだ痛む頭を撫でた。


「暴力女」

「あー!?」


こんなふうに

しょっちゅう口喧嘩してるけど

実は結構こいつに救われている。



「…罰として今日昼奢れな」

「…っしょーがないなぁ。
300円以内だかんね」

「量足りねーし」

「じゃあ奢んない」



この口喧嘩も、楽しかったりするんだ。