あの子はスケッチブックみたいなものを取り出した。
必死でそれを俺のほうに向ける。
でも遠すぎてそこに何が書いてあるか分からない。
「…………………ん?」
よーく目をこらす。
それでも分からなくて、俺はベランダにまで出た。
そうするとあの子は自分の手を筒状にして目にあてた。
それは双眼鏡を示しているかのようで、
……………………あっ!!!!
そうだ!双眼鏡だ!
俺はあの子に向かって手のひらを向けた。
「ちょっと待って」
の合図。
俺は急いで双眼鏡を探す。
どうしてこんなにも俺は一生懸命になっているんだろうか。
今までの俺はギターと春樹、智樹のこと以外に一生懸命になったことはなかった。
それなのにあの子のスケッチブックが気になって、
こんなにも懸命に双眼鏡を探している。
「…………あった!!」
そんなことを心の中で考えながら俺は見つけた双眼鏡を顔の前に持ってくる。
『あたしの名前、悠香(ユウカ)』
1枚目のスケッチブックにそう書いてあるのが見えた。
俺は両手を上に持ってきて大きな丸を作る。
「読めたよ」
の合図。


