ピエロ…って。あのピエロだよな…

ピエロに何があったんだろう…

あ〜全然わからん!

今、カノンの記憶を戻すヒントは、ピエロって
事なのか…?

俺は、この時はまだカノンに何があったのか知るよしもなかった。

翌朝晴天の中、鳥たちが固まって空を飛んでいた。

俺は目が覚めリビングのカーテンを開け眩しい太陽を見て、気分が良かった。

カノンが起きてきた。

「おはよう!」俺は、微笑んでカノンに言った

カノンは、無言で外を見た。

「カノン…ちょっと出かけようか?」
と、俺が外出に誘うとカノンはキョトンとした顔をした。

俺は素早く準備をし、カノンを街に連れ出した。気付けば俺はカノンと手を繋いで楽しんでいた。

いろんな服を選んで買い、美容室に入ってカノンの髪型をセットしてもらった。

カノンが髪型セット終了後戻ってきた時、俺はドキドキして目を見開き驚いた。カノンが綺麗でどこかのお姫様のように変身していたから…

「カノン。綺麗だよ」と微笑みかけた。

カノンは戸惑っている様子だった。

その後、少し小洒落たレストランに行き、ディナーにして帰宅した。

カノンは玄関に入るとそのままベッドに直行し寝てしまった。

「久々の外で疲れたか…」

俺もシャワーを浴びてリビングのソファーに横なった。

翌日。会社で俺は順平にカノンと出かけた日の事を話していた。

「でさ〜美容室で髪型もセットしてもらったら、見違えるくらい綺麗でさ〜」

「翼〜なんか楽しそうだな。おまえ」
ふと順平を見ると唖然とした顔をしていた。

「そうかぁ?べつに俺は…」
言葉が詰まった。

「あんまり、ハマりすぎると別れが辛くなるぞ〜?ソラちゃん時みたいに…」

俺は順平が何言ってんだか、理解しなかったけど、よく考えてみたらカノンは記憶喪失で思い出すまで俺の家にいる。

もし、カノンが記憶を取り戻して家族の元に帰る時、もうカノンと呼べなくなる。それに、カノンにもし恋人でもいたら…って思った瞬間、胸に痛みを感じた。

これは、何なんだろう…?

まぁ、いいっかぁ。と気持ちを切り替え俺は仕事に戻った。

夕刻になって、社員達が「お先に失礼します」と言って退勤していく。

俺は残った企画書を作成していた。ふと時計を見ると8時を過ぎていた。

キリのいいところで仕事を終え、退勤した。

自分のマンションに着き、自分の部屋がある方へと顔を上げ、見上げる。

俺の部屋は5階だ。電気が点いている。

カノンはまだいる。

俺は、何故かホッとしていた。

エレベーターに乗り、5階に着く。

部屋の鍵を開け玄関に入ると、浴室からカノンが昨日買ったルームウェアを着て出てきた。

俺は嬉しくなって、「よく、似合うじゃん」と微笑んだ。

カノンは少し頬をピンク色に染め俯いた。

俺は、台所に行き冷蔵庫から缶ビールを取り出し、口を開け4分の1程一気に飲んだ。

「かぁ〜!やっぱ、仕事帰りに飲む冷えたビールはうまい!」

カノンがカウンター越しに立ち、迷いながら声を出す。

「あの…どうして、そんなに優しくしてくれるの?」

少し俯きながらカノンは話を続けた。

「名前もわからない。どこの誰だかわからない私に…どうして?」

俺は、一呼吸置いてゆっくり返答した。

「似てるからかな…。ソラに」
俺はソラが笑ってる写真立てに目を向けた。

カノンもソラの写真を見る。

俺は写真立てを手に取り、カノンに見せた。

「俺の元婚約者。野山ソラ」

カノンはソラの写真を見つめた。

「ソラと一緒に住む予定で、このマンションも買ったんだ。でも、間に合わなかった。
結婚しようって言ってたんだけど、白血病で死んじまった。」
俺はソラの顔を思い浮かべていた。

ソラの思い出話を続ける。

ソラと出会ったのは、母親が盲腸で入院した時。病院の庭で、車イスに乗って桜の木を見上げていた。段差に車イスのタイヤが引っかかって俺が手助けをし、それから話をする様になって、母親が退院しても何度かソラに会いに行き、ソラが退院してからも何度か食事に行ったり映画に行ったりするようになって、連絡取り合うようになった。

退院後も定期的に受診していたソラは、俺と付き合って5年目に入る頃、再発した。

俺はソラにプロポーズした。その後にマンションも買って、結婚式挙げようって話していたけど、急変しちゃってさ。ソラの親から連絡受けて慌てて病院に行ったんだけど、もう力がなくて、ソラは俺の手を握り「あなたに、もう一度会いたい…」そう言い残して息を引き取った。

「ソラも海が好きで、よく海に来て眺めてた。
あと、唐揚げも好きで美味そうに食べてた。
その顔が少し似て見えたから…たから…俺」

ふとカノンを見ると、カノンの頬を流れていく涙があった。

「なんで?どうした?俺なんかした?」
焦ってそう言うと、カノンは首を横に振った。

「わからない…わからないけど、つーさん私のせいで泣けなかったんじゃないか…?って思ったら涙が…」と声を震わせ涙を拭っている。

俺の代わりに泣いてくれてんのか…?

俺は、カノンの頭を優しく撫でた。
「ありがとう…俺の代わりに泣いてくれて」

俺はふと思い出した。

「あ…そうだ!ほい!これ」と言いながら出したのは、携帯。

カノンと連絡取りやすいように、ここにいる間だけの連絡手段として、携帯を買った。

カノンの携帯には俺の番号しかまだ登録していない。

「これ、あれば何かと便利だからさ」

カノンは少し、恥ずかし気に微笑んでいるように見えた。

「カノンは、この携帯と同じで、今は俺の記憶しかないけど、そのうち色んな記憶が増えて、繋がりができて、昔あったカノンの記憶も取り戻せるようになるよ。きっと」

俺はソファーにゆっくり横になり、手を枕代わりに仰向けになった。

カノンは携帯を持ったままベッドに行った。