マリアンヌは、新聞広告欄に半年だけ家庭教師をしますという広告を出した。
得意科目は、国語、地理、フランス語、ラテン語と書いた。
そして、聖カタリーヌ学園卒業ということもしっかりと記した。
聖カタリーヌ学園は、貴族の女子が大抵通う名門女子校だった。4年間通い、そこで貴族の女性が学ぶべきこと、英語、フランス語、ドイツ語などの言語に、その他の一般教養、さらに音楽の時間、絵画の時間もあった。
さらに、エチケットに関しては、厳しく指導された。
また、学園はロンドンの中心にあり、寮生活か自宅から通うかできた。マリアンヌは、ロンドンに住んでいたので自宅から通った。
この学園で楽しい学校生活を過ごし、成績も中より上だったマリアンヌは、自分の学力に自信を持っていた。
この学校を出たことを書いておけば、大抵の貴族の親は、マリアンヌを信頼してくれるはずだった。
マリアンヌは、家庭教師の仕事を始めることは、少しためらいがあったが、今の家の財政状況を考えると、スコットランドに旅立つまでに少しでもお金を稼いでおきたかった。
どうせ社交シーズンは終わったので、当分暇を持て余すことになる。(それに、マリアンヌは、年齢的なこともあり、あまり誘いがかからなくなっていた。)それなら、有意義に時間を使いたかった。もはや、マリアンヌは、結婚に何の望みも抱いていなかった。
25歳になったし、次の年にはスコットランドに行っている。
その地の事は、あまり知らないが、裕福な若者はあまりいないだろう。別にマリアンヌは、お金持ちと結婚したいわけではないのだが、一応貴族の端くれなので、同じ階級の人を探していた。
だが、マリアンヌは、恋してから結婚したいと少女の頃から思ってきたし、今でもそうするべきだと思っている。でも、こんなになかなか恋ができないとは思わなかった。
確かに一度、19歳の頃、熱烈な恋をしたことがある。
相手は1歳上のセバスチャンという良家の次男だった。
お互い恋心を抱き、よく会い、セバスチャンも結婚したいと言っていた。だが、その初恋はあっけなく終わった。セバスチャンの父が反対してきたのだった。
マリアンヌはセバスチャンが自分のために戦ってくれると思ったが、彼は父の命令に従っただけだった。
マリアンヌは心底傷つけられ、夜な夜な泣いた。
その頃は、母がまだ生きていたので、母が慰めてくれた。
母がそうしてくれたから、マリアンヌは命拾いした。母がいなければ、マリアンヌは命を絶っていただろう。
それぐらい、マリアンヌは傷ついていた。
それから3年後、ようやく社交界に復帰できるぐらい立ち直ったが、次はなかなか良縁に巡り合わなかった。マリアンヌはもしかしたら。心のどこかで失恋することを恐れていたのかもしれない。そうして、楽しめないままシーズンは過ぎていった。
マリアンヌは、物思いから覚め、新聞社に広告を出してもらいに行こうとした。新聞社は大通りにある。レディは一人で出かけてはならない。メイドのサリーについてきてもらうよう、頼まなくては。
マリアンヌはサリーを呼びに行き、お使いについてきてほしいと頼んだ。
サリーはわかりましたという感じで、足を少し曲げ、二人で外套をかぶり、通りに出た。