翌朝、マリアンヌ達マクレーン家は、3つに分かれて馬車に乗った。
1つには、マリアンヌ、リリー、メアリー。
⒉つ目には、ケイト、ポリアンヌ、そして父とが乗った。
3台目は、使用人たちの馬車だった。馬車は貸馬車だった。
荷物は最小限の物しか手元になく、他は先に業者に頼んで送ってもらった。ロンドンの道をガタガタ走り、砂ぼこりを立てていた馬車が次第に次の街へと進んでいった。
それまでの大都会とはうって変わって、こじんまりとした街が続いた。マリアンヌは外の景色を見るのを楽しんだ。
マリアンヌは人生のほとんどをロンドンで過ごし、町から離れることはほとんどなかった。マリアンヌは新しく見える景色に心を躍らせた。ロンドンを離れる寂しさはあっという間に、目の前の景色の楽しさと新しい土地での生活への期待感に取って代わった。マリアンヌの目は、あの後落ち込んで、うまく眠れず、寝不足の様子が出ていた。
リリーとメアリーはマリアンヌの様子に気付いて、「お姉さま、どうしたの?」と聞いてきた。マリアンヌは、「寝不足なのよ。」と答えた。一晩立ったおかげで、コスナー氏の事は忘れようと心に決められた。
新しい生活への楽しみがあるおかげで、コスナー氏との別れが辛く感じることが少なくなってきていた。
リリーもメアリーも窓から見える景色に心を奪われているようだった。
きっともう一つの馬車の方でも、妹たちが興奮して窓を見ている姿が思い浮かぶ。3台目の馬車には、残った少数の使用人たちがいて、その中にジョンもいる。マリアンヌはジョンはどうしているだろう、と思った。
他の仲間達に優しくされているかしら?居心地悪い思いしていないかしら?ま、サリーとジョアンナ夫人いれば大丈夫だろうけど。
そう思うと、マリアンヌは安心してまた外の景色を見だした。
スコットランドまでは、馬車で6日かかった。あのあと、ほとんどの景色は、どこまでも続く麦畑や羊の牧場ばかりだった。
夜は宿で寝た。皆、一日中馬車でガタゴト揺られ続けていたので、疲れ果てていた。五日目の夜などは、疲労の色が濃く、宿での夕食でも皆口を聞かなかったぐらいだ。末っ子のポリアンヌは、旅に疲れて、涙をポロリと流したぐらいだ。
マリアンヌは夕食が終わると、リリーとの相部屋に入るなり、ベッドに直行してあっという間に眠りについた。次の朝、今日にはもう新しい家に着けるという喜びで、全員、昨日とは違いウキウキした雰囲気だった。
マリアンヌも初めて見る新しい家に期待でワクワクしていた。
旅はスコットランド特有の景色が表れていた。
荒涼とした緑に、岩がゴツゴツあり、風が吹いていた。
しばらく乗り続けて、お昼を過ぎたころ、ようやくそれらしき建物が見えた。石造りの重々しい城だった。近づくにつれ、建物の石が所々壊れかけていて、長い年月ここに建っていたことが想像された。
「まるで怪奇小説に出てくるゴシック様式の城みたいね」とメアリーは、キラキラした目で言った。マリアンヌも確かにこの城は、歴史を感じる年代物のようで、小説の舞台になりそうだわ、と思った。
リリーは、「あらまあ」と言って、扇で口元を隠した。
馬車はそれからゴロゴロ道を進み、門の前に着いた。
三台の馬車は、長い旅を終え、ようやく目的地に着いた。
それぞれの馬車から人が出てきて、皆犬のように伸びをしたり、疲れをとったりしていた。そして、積んであった荷物を取り出した。
それから、父のジョンが門の鍵を開けたので、中へ入れるようになった。皆、狭い馬車の中で座っていたので、お尻が痛くなった。
マリアンヌはやっと解放されてホッとした。
父が門を開けると、下の妹二人は、走り出してあっと言う間に城の方へ走っていった。マリアンヌは他の姉妹たちは、両手に荷物を持って運んだ。門から城までは、ゴロゴロとした石がいくつかあった。城の扉を開けて入ると、中は薄暗く、窓から弱い光が射しているだけだった。
ほこりっぽかったので、掃除をしなければならない、とマリアンヌは感じた。先に家具が運ばれており、エントランスの中央に置かれていた。末っ子の二人は、もっと奥を見ようとして先を急ごうとしたが、「まだ行っちゃいかんよ」と父に止められた。
後から、使用人たちが遅れてやってきた。
彼らの両手には、それぞれの持ち物を入れた鞄を持っていた。ジョンもやってきて、好奇心いっぱいの目で見つめていた。父が、「ご苦労さん、お前たち。すぐ休憩したいところだが、家中の窓を開け、換気しないと。手分けしてやってくれ。床下には十分注意するんだぞ。」と言った。
すると、下の妹たちは一目散に駆け出した。
それから、数日間は、家族全員と使用人たちで新居の掃除をした。この城は、何年も使われていなかったらしくほこりだらけであった。母の兄夫婦の所有物件なのだが、兄夫婦はここから二キロ離れた別の城塞に住んでいた。
最後に人が住んでから数十年は経っているそうだった。
城には傷みが激しいところがあり、父が「これから修理せねばならん」とブツブツ言っていた。
また、城の西塔と東塔は危険なので、当分立ち入り禁止となった。
マリアンヌは城の三階部分の一室を当ててもらった。城には、たくさん部屋があったので、全員一室貰えることになった。
今まで相部屋だった妹たちは、悲鳴を上げるほど喜んだ。マリアンヌは、部屋を居心地よくするために苦心した。まず、自分の家財道具を運んでもらい、自分のマットレスを運び、ベットカバーをひいて、立派な天蓋付きのベッドができた。「よかったわ。これでぐっすり眠れる。」マリアンヌは感慨深げだった。なぜなら、最初の数日は、一家全員で、大きな部屋に雑魚寝していたからだ。
それから、以前の家から持ってきた大切にしていた物たちを飾っていった。
洋服を出して衣装箪笥にしまったり、本を本棚に置いたりした。それからしばらくして、マリアンヌの部屋は、彼女らしい温かみのある立派な部屋になった。