振り向いたらあなたが~マクレーン家の結婚~

メイフェア通りのケヴィンの邸宅では、執事のロバートが郵便配達人からいくつかの
封書を受け取った。その中に、マリアンヌのものがあった。
ロバートは、そのほとんどは、旦那様のものなので、旦那様の書斎の郵便受けのボックスに入れようと、二階に上がろうとした。その時、マリアンヌの手紙だけ、するりと落ちて、廊下に置いてあったキャビネットの下にパラリと入ってしまった。
執事はその事に気がつかず、そのまま階段を上ってしまった。執事が書斎に入ると、ケヴィンが仕事をしていた。そこで、「手紙が届きました。」と告げ渡した。
ケヴィンは、手紙のあて名を見ていくと、やがてため息をついた。
そしてロバートに下がるように、目で合図した。
手紙は、何人かの知人からの社交の誘いだった。ケヴィンは、「クソ」と言い、パイプに火を付けた。マリアンヌからの手紙はなかった。
マリアンヌは、最後に会った時、二か月後に行くと言っていたから、そろそろ出発するだろう。もしくはもう向こうに行っているのかもしれない。
こんな別れ方は悲しかった。何の別れの挨拶もなく。あれだけ親密な関係を築いたのに。
最後にマリアンヌの家に行こうかと思ったが、やめておいた。
マリアンヌに無駄な期待をさせるわけにいかない。結婚する気もないのに、自分をいい印象をつけたくて、わざわざ会いに行くなんて。
それに、マリアンヌに謝るつもりもない。自分が間違ったことをしているわけではないし、信念を曲げるつもりはない。
それなら、会わない方がいいだろう。マリアンヌがこのまま自分を憎んで、忘れてしまったらいいんだ。ケヴィンは、そう思うと、パイプの煙を大きく吐き出し、暗い顔で部屋を見つめた。