振り向いたらあなたが~マクレーン家の結婚~

数日後、マリアンヌはコスナー氏に呼ばれて彼の家へ訪れた(もちろん、メイドのサリーを伴って)。コスナー氏は、マリアンヌの頼みを悦んで了承してくれた。
「全然構わないよ。時間ならたっぷりあるしね。友人だから、困った時助け合うのは当たり前じゃないか。」そう言って、マリアンヌを応接室のテーブルへ案内した。マリアンヌは椅子に腰かけ、カバンから持ってきた資料を見せた。
「どれどれ?」そう言うと、コスナー氏はマリアンヌのそばの椅子に座った。コスナー氏は、たくさんの数字が書かれた紙を見つめた。そして、マリアンヌが空欄にしている所の計算をサラサラと解き始めた。
マリアンヌは驚嘆の表情でコスナー氏を見た。そして、ああ、助かったとマリアンヌは心底ホッとした。
コスナー氏は、マリアンヌに解き方を教えた。
「ここの数式は、・・。」マリアンヌはコスナー氏との距離が近すぎると思った。こんなに近づいたのは、初めてな気がする。それに、コスナー氏の肘が当たっている。マリアンヌはコスナー氏の存在が意識されて、頭に中々説明が入ってこなかった。マリアンヌは段々冷や汗をかいてきた。
「というわけで、この公式を当てはめると、・・。」マリアンヌがフッと顔を上げると、コスナー氏の顔が近くにあった。コスナー氏が手を止め、二人は見つめあいました。
二人の間に何か熱のようなものが発生しました。
そして、どちらからとなく自然と二人は唇を重ね合わせました。マリアンヌはびっくりして、体を離そうかと思いましたが、コスナー氏が腕に手をかけてきたのでそのままにしました。口づけは、最初触れ合う程度だったのに、その内どんどん深まり、コスナー氏の舌が口の中に入ってきました。
二人はほとんど抱き合ってキスをし続けました。口づけが終わった時、二人は荒い息を吐きました。マリアンヌは頭の中が混乱し、居たたまれない気持ちでいっぱいでした。どうしよう、コスナー氏とはこういうことをするつもりじゃなかったのに。
私ったら、一体どうしてこんなことをしたの?!マリアンヌは、部屋の端にいるサリーはこの光景を見たのかしら、と動揺しながらサリーの方を見ると、サリーは本を手に持ちながら、頭を下げ、うつらうつらと眠り込んでいました。
マリアンヌは、ホッとしました。
一方、コスナー氏のほうも、明らかに動揺しているようでした。髪の毛をかき揚げ、宙を見ていました。
「ごめん」そう言うと、立ち上がり、部屋の端に置いてあったサイドテーブルの上の水差しからコップに水を注いで持ってきてくれました。
「飲むといいよ。」そう言うと、マリアンヌの前にコップを置きました。マリアンヌはコップを持ち、一口飲んでみました。それから二人は何も喋らず、それぞれ考え事をしていました。コスナー氏が資料をめくり、「続きをしようか。」と言って、先ほどの解説の続きをしだしました。マリアンヌはほとんど上の空で、説明が頭の中に入ってきませんでした。それから、30分後、ようやくコスナー氏の解説が終わり、マリアンヌは家に帰ることになりました。コスナー氏は、マリアンヌを玄関口まで送ってくれました。サリーは先にコスナー氏が予約してくれた辻馬車に乗り込んでいました。玄関口で二人でいながら、マリアンヌは今日の事はなかったことにするのかしら、と考えていました。すると、コスナー氏がマリアンヌの手を取り、「先ほどの事は、申し訳なかった。しかし、君が美しくて。それにあれは僕の気持ちの一つでもある。これから、どうなるかわからないが、そういうことだ。」
「えっ?!」
「このことは気にせず、これからも遠慮せず、数学のことでわからないことがあれば、協力するよ。」そうして、ニコっとほほ笑み、「またしてもいいかな?」と尋ねました。マリアンヌは顔を真っ赤にし、コクリと頭を頷きました。コスナー氏は、片手でマリアンヌの頭を上に持ち上げ、スッと素早く口づけしました。そうして、またニコッとほほ笑み、彼は手を振り、家の中に入っていきました。マリアンヌは、嬉しい気持ちで、待たせていた馬車に乗り込みました。馬車に入ると、サリーが不思議そうな顔でマリアンヌの方を見ました。
「どうしたのですか?お嬢さま。何だかいつもと様子が違います。」
「そうかしら?でも、コスナー氏ってとってもいい人って、よくわかったわ。」
「それは、よかった。こんなお嬢さまを見るのは久々です。」サリーに色々話したかったが、やめておいた。このことは、自分の胸にそっとしまっておこう、とマリアンヌは思った。