今は、確信をもって言える。あれは、先輩だ。



向こうも私に気づいて体を起こすと手を振った。



私は、できるだけ平常心を保って、でもやはり速歩きになりながら先輩のもとに急ぐ。



「おはよー、水野。」




聞きなれたのんきな声。



「はぁ、先輩早すぎません?私、待ち合わせの時間間違えましたか?」



最後には少し小走りになっていたせいもあって、息を切らしながら私が尋ねると先輩はあはっと笑う。




「水野は間違えてないよ。」




どういうことかと、先輩を見上げる。



先輩は観念したというように息を吐く。



「僕が間違えたんだ、一時間。」



その言葉に思わず、は?と声に出してしまった。



「先輩が時間指定したくせに、どうして自分で間違えるんですか?」



呆れてそう訊くと、先輩はちょっとだけ罰が悪そうな顔。



「珍しく今日は早起きしたから、ゆっくり準備したんだよ。」


「それで?」



それだけじゃあ、間違える理由にはならないはず。



「それで、準備が終わったあとゆっくりしてて、時計をみたらもう40分って思って慌てて家を出たらまだ8時40分だったってわけ。」



それは。先輩らしくない失敗に思わず吹き出す。