「ゴメンね、詩音…!」

映奈の体が震えだす。そしてその時、部屋の奥から若奈も来て、私の体を横から抱きしめた。

「…何で…? 何で二人が謝るん…?」

真っ先に私が抱いた感情は、困惑だった。

「だって…私達のせいだよ?」
「アタシ達が相談しちゃったから…詩音が責められることになったんだよ?」

そうじゃない。私が勝手に首を突っ込んだんだ。思っても言葉には出ず、音として出るのは嗚咽ばかりだった。

「ゴメンね…!」
「詩音は悪くないから、安心して…!」

いつからだろう?

過去が邪魔をして、人より疑り深い性格になってしまった私だが、少なくとも二人の言葉は、何のフィルターも通さずに、あるいは「二人の言葉なら信じられる」というフィルターだけを通して、素直に聞いていられた。だからこそ、二人が謝っているのを見ると、本当に辛くなってしまうのだ。

「丸く収まった、のかな?」

背後で尾張先生の声がする。

「そうみたいだね、よかった…。じゃあ、僕もそろそろ寝る準備しないとだね。…あ~、疲れた…」

遠ざかる足音は、硬い床が打ち鳴らす音が外の柔らかい土の呼吸音になるまで聞こえた…が、何故か土の呼吸は、再び床の音に戻った。

「津田さん」

今度は答えを求めた話し方だったので、泣き顔のままでも振り返る必要があった。

「あっ…どないしたんですか…?」

先生が親指で寮の外を指さす。

「外に氷室君達がいたんだ。津田さんに話があるみたいだから…行ってもらえる?」