空に浮かぶ雲がオレンジ色に染まり出す頃、若奈・直都ペアは電車に乗っていた。

「どうだった? 動物園もいいもんでしょ?」
「ああ。聖都、あんまり外に出たいって言わなかったからな。動物園とかもう何年振りだ、って感じだぜ」

電車の揺れと二人の揺れがシンクロする。

「なあ」

直都が話を切り出したのは、三つ目の駅で停車した時だった。

「ん? どうしたの?」
「この後ちょっと寄りたい所があるんだけど、いいか?」
「…うん、いいけど…」

直都がスマホを取り出す。何かの操作を始めて一分後、通知音が鳴った。

「ヤバっ、マナーモードにするの忘れてた」
「全く…誰とLINEしてるの?」
「聖都。聖都の方も、今日出かけてるらしいんだ」
「ふ~ん…」

ちょっと雲行きが怪しくなり始めたようで、車内に入る光はオレンジ色から灰色に変化しつつあった。

しかし、二人はどこへ寄るといった気配もなく、学校に戻ってきていた。

「無事に済んだみたいだね。これできっと、氷室君達の気持ちも、手塚さん達の思う方向に動いたんじゃない?」

先生が胸をなでおろす。しかし、ある不思議な現象が起きていた。

「…失礼します…」
「…失礼します…」
「失礼します」
「失礼します」

後ろで、氷室兄弟の声が聞こえた。少しエコーのかかったような聞こえ方だった。

「…えっ?」

…二人の声が後ろから? すぐさま振り返る。するとそこには、デートに行っていたはずの四人がいた。