全寮制の両里高校にも、休みはある。

創立記念日を翌日に控えた今日は、手塚姉妹にとっても絶好のチャンスだった。

「聖都」

昼休み。食堂に行こうとする氷室兄弟の片割れを、映奈扮する若奈が呼び止める。

「…先に行っててくれ…」
「おう」

廊下で直都に別れを告げた聖都が、映奈のもとへ歩み寄る。

「…どうした…?」
「えっと…明日、創立記念日でしょ?」
「…ああ…それが…?」
「う~んと…せっかくの休みだし、どこかに遊びに行かない?」
「…二人でか…?」
「うん。…もしかして、嫌?」
「…そんなことはない…」

クールな聖都の頬が赤らむ。聖都ともあろう人がこうなるということは…よほど、聖都は若奈のことが好きらしい。

映奈・聖都ペアが作戦通りであることを確認した私は、すぐさま階段を駆け下り、食堂に入る。

「直都」

すると若奈扮する映奈は今到着した所なのか、直都を呼び止める所だった。

「どうした?」
「…明日、創立記念日で休みじゃん? せっかくの休みだし、遊びに行かないかな~って思ってて」
「遊びに行くって、二人で?」
「…アタシと一緒なの、嫌…?」

直都の頬も赤らむ。二卵性でも、やっぱり双子は双子だ…。

改めて思うと、やっぱりちょっとずるいことをしているのかもしれなかった。

氷室兄弟は、この手塚姉妹の正体に気づいていない。その「X」を知っているのは、私達だけなのだ。

普通はこんなことをしようなんて考え方には至らないのだろう。だけどそれをすんなり受け入れた手塚姉妹は、少し怖いかもしれないけれど、少なくとも私にとっては憧れだった。溺れるほどの恋をしてみたかったのだ。