「…で、この本貰ってきてん」

手塚姉妹に先生との話をしたのは、寮に戻ってからだった。

「えっ、貰ったの?」
「先生、大事にしてたんでしょ?」
「せやねんけど、役に立つと思うからって…」

今日は時間がなかったため、その中身を覗いてはいなかった。厚さ的に純文学というわけではなさそうだったが、読むのに時間がかかりそうだと私の直感がささやいていた。

「尾張先生、何でこんなことしたんやろ…」

あの時の先生の一挙手一投足に、新鮮さと違和感があった。私を見る目が違っていた。…一体、先生は何を思っていたのだろう?

「…もしかして…」

映奈が何かを閃いたようで、元々大きな目をさらに大きくする。

「ん?」
「…そういうことか…」

続いて若奈も目を丸くする。

「どないしたん、二人とも?」

取り残されたことに対するある種の焦りが、そこにあった。

「…詩音」
「…びっくりしないでね?」
「うん…えっ、ホンマにどないしたん?」

そして、二人の言葉は、いつまでも頭蓋骨の中で反響し続けることとなる。

「多分だけど、尾張先生…」
「…詩音のこと、好きなんだと思う。生徒としてじゃなくて…恋愛対象として」