「…どういうことなんやろ?」

休んでていいとは言われても、理由が分からないとどうにも休む気にはなれなかった。

「…」

この時間にこんな所にいる生徒は、多分私だけだろう。誰もいない寮は、新鮮な異彩を放っていた。

「そうや…」

寮の中じゃないけれど、あそこになら知っている人がいる…そう思って向かったのは、食堂だった。

「すみませ~ん」
「はいはい、ちょっと待っといてや~」

思えば、食事をする時以外で会うのはこれが初めてだった。

「あっ、誰かと思ったら詩音ちゃんや~ん! どないしたん?」

私と同じく関西弁丸出しのおばちゃんは、ずっと前から近所に住んでいたような親近感があった。

「う~ん…何かさっき、よう分からんこと言われて…」

先刻の部屋でのやり取りを説明すると、おばちゃんは噛みしめるように首を縦に振った。

「…昨日のことは、おばちゃんも知っとるねん」
「何で?」
「朝ご飯の時に、尾張先生が言うてはってん。『相談には乗ってあげて下さいね』って。…せやから、さっき詩音ちゃんが言われた言葉の意味はよう分かる。尾張先生、今日は詩音ちゃんにはゆっくり休んでもらわんとって、そない言うてたから」
「尾張先生が…」

先生の知られざる一面が見られたような気がして…何故か、ちょっとだけドキっとしてしまう私がいた。

「詩音ちゃん」

おばちゃんが握っていた手を開く。そこには、包み紙に包まれた飴玉が一つ、置かれていた。