そして、事態は美月達の計画通りに進んで行った。

写真を何枚も印刷した美月達は、その日の放課後になると学校中にそれを貼った。当然杏樹の頭に鳥のフンを降らせた当日も杏樹は孤立していたのだが、杏樹は孤独に慣れており、さほどダメージを受けているようには見えなかった。サンドバッグは傷だらけになってこそ価値がある。だから美月達も、若干焦ってはいた。しかし、これはまだ最初の段階。後からいくらでも傷つけられるように準備はしている。だからこそ、自信を持つこともできた。

翌日。

当日は何も知らなかった生徒達も、美月が至る所に貼った写真を見て、杏樹への目を白くした。写真の下に美月が書いた「下村杏樹は鳥のフンの尻に敷かれる鳥のフン以下のゴミ」という文章も、あの光景を生で見た者、そしてその写真を見た者に、杏樹をサンドバッグにするという思想を植え付けた。

「下村」

ある放課後、男子生徒の一人が下村を呼び出した。断る理由もない杏樹は、言われるがままに校舎裏に向かった。

するとそこには、数名の男子が待ち構えていた。

「おう、連れてきたか」
「コイツ読書家のくせにバカだからな。自分の置かれてる境遇も知らずに、ちょっと呼んだらすぐに来やがった」
「早くやらせろよ」
「ああ。…じゃあ、ストレス解消と行くか」

それから十数分にわたって、数名の男子生徒の拳や足が執拗に杏樹に叩きつけられた。何せ初めてのことだったので、杏樹は抵抗する手段も知らず、その暴行を一発ごと、全てを体に刻み込んだ。体から血が流れても、意識がもうろうとし始めても、男子生徒はその行為をやめず、杏樹は暴力を受け続けた。

そしてそれは、一度きりではなかった。

学年も男女も問わず、杏樹は自分以外のほぼ全ての生徒のサンドバッグとなっていた。いつからか杏樹の心にも恐怖心が芽生え、学校に行きたくないという思いも募った。しかし、行かなければならない理由も、当然ながらあった。両親である。