デートを終えて、あたしは翔に自分のアパートまで送ってもらった。


「今日は、ありがとう。楽しかったわ」


あたしは、カチンッとシートベルトを外し、素直にそう伝える。こんな所で、意地張って喧嘩別れは嫌だった。


「俺も……久しぶりに楽しいって思えた時間だった。アンタのおかげだよ、林檎」


翔はハンドルに手をかけたまま、あたしに笑みを向ける。


「不思議だな、アンタと合ってからそんな経ってないのに、もう昔から知り合いみてーだ」

「ふふっ、本当ね」


同じ痛みを抱えているからか、そもそも波長が合うのか…不思議と、翔とは気兼ねなく過ごせた。


こんな奴、関わりたくないって思ってたのに…。


「あなたに出会えて良かった。あの日、声をかけてくれてありがとうね」


あの日は、あたしが失恋した雨の日の事。
ボロボロだったあたしを、救ってくれたのは翔だ。


「俺も……あんたと会えて良かった」


あたし達は、別れを惜しむようにお互い見つめあう。


きりがないし、なんとなく恥ずかしい。
うん、そろそろ行こう。


「それじゃあ……」


あたしは扉に手をかけ、開ける。
そして、両足を降ろした所で、フワリとコーヒーの匂いがした。


あ……。

酔って翔のベットで目が覚めたときにした匂いと同じ…。
あれ、コーヒーの匂いだったんだ。


ーガバッ


「え……?」


すると、後ろから翔に抱き締められていた。
翔の腕が、お腹に回っていて、身動きがとれない。