「先生ぇ……」
「ちょっと、やめて下さいよ。あたしが何かしたみたいじゃないですか」
全く、そんな涙目で見るのは止めてほしい。
というか、男なのになんて頼りない。
「ちゃんと、仕上げましたから」
あたしはパサリと鞄から原稿を取りだし、後藤さんの目の前に差し出す。
「あぁっ!感動です!!不安でたまらなかったんですよ!?」
すると、手に取った後藤さんは目をパッと輝かせて、まんべんの笑みを浮かべた。
不安ってあたしに対して失礼じゃない!?
まぁ、締切ぎりぎりなのは申し訳なかったけど。
「そうだ先生、もう次の作品テーマは決まってますか??」
「次……ですか」
かれこれ、書籍化した数十冊は、ベストセラーになっていて、小説だけで食べていけるくらいになった。
だから、次を期待されるのは嬉しい。
だけど、恋愛作家であるあたしは、その恋愛に裏切られ、意気消沈している。
一体、どんな作品を書こう。
前なら、沸くほどアイディアが浮かんだのに。
あたしは机に肘をついて、その手のひらに、顎を乗せる。そして、ガラスウインドウから見える人並みを眺めた。
まさか、失恋が死活問題になるなんて。
英太の馬鹿……どうしてくれんのよ。


