それなりに有名なんだ。


と、直見は驚いていた。


「僕が小学生の頃、読んでた漫画の投稿ページに乗ってた人です。

佳作止まりでしたけど、本名っぽい名前だったんで覚えてます」


大抵、恥ずかしいのと格好つけで、ペンネームを使う。


本名を使う辺りが、いかにも巧らしい。売れたら自慢したかったのだ。


木下がふと気づく。


「もしかして、その人に、なんか言われました?」


「えっ?ううん?別に…」


木下はこう見えて、たまに勘が働く。


「ああいう人は、気を付けた方がいいかもしれないですよ。

あんまり知らない人、悪く言いたくありませんけど」



とりあえず、連れて帰ってもらったことは、お礼とお詫びを、と、


翌日、声を掛けてみた。


が、


「そうですか」


振り向くこともなく、そのひと言で終わった。


その背中がなんとなく、いつもより冷たく感じ、すっきりしなかった。


「大人として、こんなときくらい、顔見てくださいよ」


普段なら気にも留めないようなことなのに、妙に引っ掛かった直見。


珍しく険悪な空気になり、木下が驚く。


「今日は、帰ってください」


「はい!?」


「気が散りますんで、今日は帰ってください」


那住も、妙に苛立っていた。


「では、しばらくお休みいただきます」


「えっ?えっ!?直見さん??」


乱暴に上着と荷物を持つと、そのまま部屋を出ていった。